生物・自然の奇妙

電池を切っても、電報は届いた――167年前の今日、太陽が地球を焼きにきた

生物・自然の奇妙公開 2026年8月27日更新 2026年9月19日ザツレコ編集部
電池を切っても、電報は届いた――167年前の今日、太陽が地球を焼きにきた

1859年8月28日の夜から、人類が記録した最大の磁気嵐が始まった。9月1日、キャリントンとホジソンが史上初の太陽フレアを目撃。その17時間半後に本体が到着し、オーロラはキューバやコロンビアまで届き、アメリカ北東部では新聞が読めるほど明るくなった。電信局は火花を上げて燃え、その一方でボストンとポートランドの技師は電池を外したまま二時間、オーロラの電流だけで通信を続けている。2012年には同じ級のものが地球の軌道をかすめ、1967年には太陽が核戦争の引き金になりかけた。167年前の今日を、事実と諸説に分けてたどる。

1859年8月28日の夜。北半球でも南半球でも、人々が空を見上げて言葉を失いました。今日でちょうど167年になります。

これがのちに「キャリントン・イベント」(Carrington Event)と呼ばれる、人類が記録したなかで最大の磁気嵐の始まりです。ピークは9月1日から2日。ただし異常はこの8月28日の夜から始まっていて、当時アメリカの数学者エリアス・ルーミスがまとめた報告のタイトルは、そのまま「1859年8月28日から9月4日までの大オーロラ現象」でした。

そしてこの嵐のあいだ、アメリカの電信技師たちは電池を外したまま通信を続けています。オーロラが線に流し込んだ電気だけで、二時間ぶん仕事をした。一方で別の電信局では、機械から火花が飛び、火が出ました。同じ現象が、電気を運びもすれば、燃やしもしたわけです。

今日はその夜の話と、「次に来たらどうなるか」の話をします。

167年前の今日、空が明るくなった

確認されているところから始めます。1859年8月28日の夜、北半球と南半球の広い範囲で、異常なオーロラが観測されました。ルーミスはこの日から9月4日までの世界中の報告を集め、1859年11月から1862年にかけて『アメリカン・ジャーナル・オブ・サイエンス』誌に9本の論文を連載しています。キャリントン・イベントは9月1日に始まった一発ではなく、8月28日からの一週間まるごとの現象として、当時から記録されていました。

そしてこの8月28日の嵐が、本番のお膳立てをします。

太陽から放出されるガスの塊、コロナ質量放出(CME)は、ふつう地球まで数日かかります。ところが9月1日に出たものは、17時間台で到着しました。有力な説明はこうです。8月28日の嵐を起こした先行のCMEが、あいだの太陽風を吹き飛ばして道を空けてしまった。除雪車が通ったあとを走った、と考えるとイメージしやすいと思います。

つまり今日8月28日は、地球にとって「一発目が当たった日」です。

一羽のツバメでは、夏にならない

9月1日の正午前。イギリスの天文学者リチャード・キャリントンは、ロンドン郊外の自宅観測所で黒点をスケッチしていました。投影した太陽の像の上に、突然まぶしい白い光が二点、湧き上がります。彼は人を呼びに走り、戻ってきたときには光はほとんど消えていた。所要時間、およそ5分です。

同じものを、別のイギリス人リチャード・ホジソンも独立に目撃していました。二人の報告は『王立天文学会月報』に並べて掲載されます。これが人類が記録した最初の太陽フレアです。

面白いのは、キャリントンがそのあとどう考えたかです。同じ日、ロンドンのキュー天文台の磁力計が針の急な振れを記録していました。そして翌日から、世界規模の磁気嵐が始まる。太陽で光った、地球の磁石が動いた、嵐が来た。順番はきれいにそろっています。

それでもキャリントンは断定しませんでした。彼が書き残した言葉が、「一羽のツバメで夏にはならない」。ツバメを一羽見たくらいで夏が来たとは言えない、というイギリスのことわざです。たった一例で因果を決めるな、と自分に言い聞かせている。

太陽の爆発と地球の磁気嵐がつながっていることが科学として固まるまでには、このあと数十年かかりました。167年たっても、この一行がいちばんかっこいいと思います。

電池を切ってください

嵐の本番、9月1日から2日にかけて何が起きたか。

まず空です。ロッキー山脈では、オーロラが明るすぎて金鉱夫たちが目を覚まし、朝が来たと思って朝食の支度を始めたと伝えられています。アメリカ北東部では、オーロラの光だけで新聞が読めました。ボルティモアの新聞は9月3日付で、光は満月より明るく、街全体がこの奇妙な光の下に沈んでいた、と書いています。

見えた場所も異常でした。ハワイ、キューバ、メキシコ中南部、オーストラリアのクイーンズランド、ニュージーランド、中国と日本の南部。2016年には、コロンビアでの観測記録を扱った論文も出ています。コロンビアは、ほぼ赤道です。

そして地上では、電線が暴れました。当時の最先端インフラは電信網です。地球の磁場が急激に変化すると、長い導体に電流が誘導されます。これを地磁気誘導電流(GIC)といいます。ヨーロッパと北米の電信システムは各地でダウンし、技師が感電し、電柱から火花が飛び、局によっては火が出ました。

そのなかで、いちばん有名なやりとりが残っています。9月2日の夜、ボストンとメイン州ポートランドの技師のあいだの交信です。

ボストン「そちらの電池を15分ほど完全に切ってもらえますか」

ポートランド「了解、いま切りました」

ボストン「こちらも切っています。オーロラの電流で通信中です。私の文字は読めますか」

ポートランド「電池を使うより、よく読めます」

この二人はそのまま、およそ二時間、電池なしで業務連絡を続けました。空が発電所になった、というと大げさに聞こえますが、記録上はほぼそのとおりのことが起きています。

17時間36分で届いた

数字の話も少しだけ。

磁気嵐の強さはDst指数という物差しで表されます。1859年の推定値はマイナス800ナノテスラからマイナス1750ナノテスラ。幅が倍以上あるのは、当時の記録から逆算しているからです。参考までに、2024年5月に日本でもオーロラが見えて話題になった大きな嵐がマイナス400ナノテスラ台。桁が違います。

もうひとつ、2024年に出た研究が面白い。イギリスのチームが、キュー天文台とグリニッジ天文台に眠っていた1859年8月から9月の磁力計の記録紙をデジタル化して解析しました。結果、磁場の変化率が毎分700ナノテスラを超えていた。この緯度で「100年に1度」とされる値が毎分350から400ナノテスラですから、その倍近い。167年ぶりに紙から出てきた数字が、想定より悪かったという話です。

そしてCMEの到達時間は、推定17.6時間。およそ17時間36分です。1億5000万キロを、です。

あと9日、ずれていたら

ここからが本題かもしれません。同じことが起きる確率の話です。

2012年7月23日、キャリントン級とされる巨大なCMEが、地球の公転軌道を横切りました。ただし、そこに地球はいませんでした。直撃したのは観測衛星ステレオAで、おかげで詳細なデータが取れています。NASAの解説によれば、噴出があと一週間ほど早ければ、地球は正面にいました。

もっと際どい話もあります。1967年5月23日、巨大な太陽フレアが発生し、アメリカの弾道ミサイル早期警戒レーダーが一斉に「妨害電波を受けている」という状態になりました。冷戦下で、レーダーへの妨害は宣戦布告に等しいと解釈されます。北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)は攻撃の前触れを疑い、航空機が発進態勢に入りました。

これを止めたのが、空軍の太陽観測部門です。原因は太陽だと説明し、警戒態勢は通常に戻された。この経緯が学術論文として公表されたのは2016年で、それまで詳細は明かされていませんでした。太陽の黒点を眺めていた人たちが、たまたま核戦争を止めていたことになります。

近い実害としては、1989年3月13日のケベック大停電があります。磁気嵐でハイドロ・ケベックの送電網が90秒ほどで崩壊し、およそ600万人が9時間電気を失いました。これはキャリントン・イベントより、ずっと小さい嵐です。

次に来たら、何が止まるか

では、1859年と同じ規模が今日来たらどうなるか。ここは予測なので、諸説として扱います。

2013年、ロイズ保険組合とアメリカの大気環境研究所(AER)が共同でまとめた報告書は、北米の送電網への影響だけで被害額を6000億ドルから2兆6000億ドルと見積もりました。地域によっては復旧に数か月から2年かかるという想定です。

ロイズは2025年にも別のシナリオ分析を出していて、こちらは世界経済への5年間の損失を、控えめな想定で1兆2000億ドル、中心シナリオで2兆4000億ドル、最悪で9兆1000億ドルとしています。

あまり語られない角度の研究も紹介しておきます。2024年に『グローバル・チャレンジズ』誌に出た論文は、送電網が広域で長期に止まった場合、肥料や農薬といった農業資材の生産と流通が途絶えることで、世界の収穫量が38から48パーセント下がりうると試算しています。中欧など一部では最大75パーセント。停電そのものより、そのあとに来る話です。

なお、1859年より大きい嵐の痕跡も見つかっています。樹木の年輪に残る炭素14の急増から、西暦774年から775年に、キャリントン・イベントの10倍以上とされる太陽粒子イベントがあったことがわかっています。紀元前7176年ごろには、それをさらに上回るものがあったという報告もあります。

ただし、この種の粒子イベントと、送電網を壊すタイプの磁気嵐が同じものかどうかは、まだ議論の途中です。ここは断定しません。

まとめ

167年前の今日、1859年8月28日の夜から、人類が記録した最大の磁気嵐が始まりました。9月1日にキャリントンとホジソンが史上初の太陽フレアを目撃し、その17時間半後に本体が到着。オーロラはキューバやコロンビアにまで届き、アメリカ北東部では新聞が読めるほど明るく、電信局は火花を上げ、ボストンとポートランドの技師は電池を切ったまま二時間、仕事を続けました。

2012年には同じ級のものが地球の軌道を横切っていて、地球はぎりぎりですれ違っています。1967年には、太陽が出した電波が核戦争の引き金になりかけました。

キャリントンはあの日、太陽と地球がつながっているとは断定しませんでした。一羽のツバメで夏にはならない、と。ただ、彼が見なかったツバメは、そのあとも何度か飛んでいます。次の一羽が来たとき、電池を外して仕事を続けられる人は、たぶんもういません。

出典・参考情報

  • [A] Carrington, R. C.「Description of a singular appearance seen in the Sun on September 1, 1859」Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 20: 13–15(1859年)
  • [A] Hodgson, R.「On a curious appearance seen in the Sun」Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 20: 15–16(1859年)
  • [A] Loomis, Elias「The Great Auroral Exhibition of August 28th to September 4th, 1859」The American Journal of Science(1859年11月〜1862年、全9編)
  • [A] NOAA NESDIS「What Was the Carrington Event?」
  • [A] NASA Science, Tony Phillips「Near Miss: The Solar Superstorm of July 2012」(2014年7月23日)
  • [A] Beggan, C. D. ほか「Digitized Continuous Magnetic Recordings for the August/September 1859 Storms From London, UK」Space Weather 22(3)(2024年2月29日)
  • [A] Lloyd's of London / Atmospheric and Environmental Research『Solar Storm Risk to the North American Electric Grid』(2013年)
  • [A] Lloyd's of London「Extreme space weather systemic risk scenario」(2025年)
  • [B] Tsurutani, B. T. ほか「The extreme magnetic storm of 1–2 September 1859」Journal of Geophysical Research 108(A7)(2003年)
  • [B] Knipp, D. J. ほか「The May 1967 great storm and radio disruption event」Space Weather(2016年/NORAD誤警報の経緯)
  • [B] Moreno Cárdenas, F. ほか「The grand aurorae borealis seen in Colombia in 1859」Advances in Space Research 57(1)(2016年)
  • [B] Green, J. L. ほか「Eyewitness reports of the great auroral storm of 1859」Advances in Space Research 38(2)(2006年/ボストン–ポートランド間の交信記録)
  • [B] Moersdorf, J. ほか「The Fragile State of Industrial Agriculture」Global Challenges 8(1)(2024年)
  • [B] Baltimore American and Commercial Advertiser「The Aurora Borealis」(1859年9月3日)

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