宇宙・地球の謎

ダークマター――宇宙の物質の85%は、光らない「見えない何か」だった。ツビッキーの発見から、2026年に地下1500mの検出器がとらえた1回の信号まで完全解説

宇宙・地球の謎公開 2026年10月15日ザツレコ編集部
ダークマター――宇宙の物質の85%は、光らない「見えない何か」だった。ツビッキーの発見から、2026年に地下1500mの検出器がとらえた1回の信号まで完全解説

ダークマター(暗黒物質)とは何か。宇宙の物質の約85%を占めるのに光らない「見えない何か」を、1933年のツビッキー、ヴェラ・ルービンの銀河の回転、2006年の弾丸銀河団、WIMP・アクシオンなどの正体の候補、2025年のガンマ線の報告、2026年のLZ実験の「たった1回の信号」までたどる。

夜空を見上げると、星や銀河が無数に輝いています。ところが天文学者の計算では、宇宙にある物質のうち、光を出して目に見えているのは全体の2割にも届きません。残りのおよそ85%は、光も電波も出さず、触れることもできない「何か」です。重さだけはあるのに、正体がまったくわからない。それが「ダークマター(暗黒物質)」です。1933年に一人の天文学者が「計算が合わない」と言い出してから、およそ90年。2026年9月には、アメリカの地下深くにある検出器が、正体の手がかりかもしれない「たった1回の信号」をとらえたと発表しました。宇宙最大の行方不明者を追いかけた人たちの記録を、順にたどっていきましょう。あっても無くても人生に影響しない、極上のムダ知識をインストールしていこう。

宇宙の物質の85%は、見えない何かでできている

ダークマターとは、光や電波を出さず、光を吸収も反射もしないのに、重力だけははっきりと及ぼしている物質のことです。名前に「ダーク」とついていますが、黒い物質という意味ではありません。どんな望遠鏡でも直接は見えない、という意味の「暗い」です。

宇宙の中身の割合を最も細かく測ったのは、ヨーロッパ宇宙機関の観測衛星プランクです。宇宙が生まれて間もないころの光の名残を全天にわたって調べ、2013年に、宇宙全体のエネルギーのうち、私たちの体や星をつくる普通の物質は約4.9%、ダークマターは約26.8%、残りの約68.3%は宇宙の膨張を加速させている「ダークエネルギー」だと発表しました。物質だけで比べると、ダークマターは普通の物質の5倍以上あることになります。

ここで混同しやすいのが、ダークマターとダークエネルギーです。名前は似ていますが、まったく別のものです。ダークマターは重力で物を引き寄せ、銀河をまとめる側の存在です。一方のダークエネルギーは、宇宙全体を押し広げる側の正体不明の何かです。今回の主役は、引き寄せる側のダークマターです。

1933年、ツビッキーが銀河団の「足りない重さ」に気づいた

最初に「見えない物質がある」と言い出したのは、スイス出身の天文学者フリッツ・ツビッキーです。カリフォルニア工科大学にいた彼は1933年、地球からおよそ3億光年先にある「かみのけ座銀河団」を調べていました。1000個ほどの銀河が集まった大集団です。

ツビッキーは、銀河団の中で一つ一つの銀河が動いている速さを測りました。速く動く銀河をつなぎ止めておくには、それだけ強い重力、つまり大きな重さが必要です。ところが、見えている銀河の光から見積もった重さでは、とても足りませんでした。計算では、銀河団は本来あるべき重さの数百倍もの物質を必要としていたのです。このままなら、銀河団はとっくにばらばらに飛び散っているはずでした。

そこでツビッキーは、ドイツ語で「ドゥンクレ・マテリエ」、つまり暗い物質がたくさんあるに違いないと書きました。これがダークマターという言葉の始まりとされています。ただ、当時は観測の精度も低く、この主張はほとんど相手にされませんでした。見えない物質という考えが本気で検討されるまで、それから40年近くかかることになります。

銀河の外側が速すぎる、ヴェラ・ルービンの平らなグラフ

流れを変えたのは、アメリカの天文学者ヴェラ・ルービンです。彼女は同僚のケント・フォードが作った新しい分光器を使い、銀河の中の星やガスが、中心からの距離に応じてどれくらいの速さで回っているかを測りました。

太陽系では、太陽から遠い惑星ほどゆっくり回ります。重さのほとんどが中心の太陽に集まっているからです。銀河も、光っている星の多くは中心近くに集まっているので、外側の星ほど遅く回るはずでした。ところが1970年に発表したアンドロメダ銀河の測定では、外側に行っても回る速さがほとんど落ちず、グラフはほぼ平らなままでした。

ルービンとフォードはその後、数多くの渦巻銀河を調べ、1980年には21個の銀河で、どれも同じように外側の速さが落ちないことを示しました。銀河の外側にまで、見えない重さが大きく広がっていると考えなければ説明がつきません。銀河は、見えない物質の巨大な塊、いわば「ハロー」に包まれていたのです。私たちの太陽も、天の川銀河の中を秒速200キロ以上で回っていて、1周するのにおよそ2億年以上かかります。この速さで振り落とされずにいられるのも、見えない重さのおかげだと考えられています。ルービンの名は今、チリに建てられたヴェラ・C・ルービン天文台に残されています。

弾丸銀河団と重力レンズ、見えないものを「写真」に撮る

見えないものが本当にあるのか。それとも、私たちの重力の理論のほうが間違っているのか。実際、1983年にはイスラエルの物理学者モルデハイ・ミルグロムが、重力の法則そのものを修正すれば見えない物質はいらない、という説を出しています。この論争に大きな一石を投じたのが、2006年8月にNASAが発表した「弾丸銀河団」の観測です。

弾丸銀河団は、二つの銀河団が猛烈な速さでぶつかり、すり抜けた直後の姿です。銀河団の普通の物質の大部分は、星ではなく、銀河のあいだに漂う非常に熱いガスです。衝突のとき、このガスどうしはぶつかってブレーキがかかり、真ん中に取り残されました。ところが、重さの分布を調べると、重さの中心はガスの位置ではなく、そのずっと外側にありました。

重さの分布を測るのに使われたのが「重力レンズ」です。重いものの近くでは空間がゆがみ、後ろにある銀河の光が曲がって見えます。そのゆがみ方から、見えない重さがどこにあるのかを地図にできるのです。研究チームを率いたアリゾナ大学のダグ・クロウは「ダークマターが存在する直接の証拠だ」と述べました。ぶつかってもブレーキがかからず、すり抜けていく見えない重さ。それはまさにダークマターに予想されていた性質でした。

この方法は今も使われています。2023年に打ち上げられたヨーロッパ宇宙機関の宇宙望遠鏡ユークリッドは、何十億個もの銀河のゆがみを測り、ダークマターの立体地図をつくろうとしています。

正体の候補は、重い粒子、軽い粒子、そして小さなブラックホール

では、ダークマターの正体は何なのでしょうか。わかっているのは、光とほとんど関わらず、重力で集まり、宇宙の初めから大量にあった、ということだけです。そこで物理学者たちは、いくつもの候補を挙げてきました。

最も有名なのが「WIMP(ウィンプ)」です。英語で「弱く相互作用する重い粒子」を縮めた言葉で、陽子の数十倍から数千倍の重さを持つと考えられてきました。もしこれが正体なら、私たちのまわりにもあふれています。仮に陽子の100倍ほどの重さだとすると、計算のうえでは毎秒、数億個が私たちの体を何事もなく素通りしていることになります。

二つ目の候補は「アクシオン」という、とても軽い粒子です。1970年代に別の問題を解くために考え出されたもので、名付け親の物理学者フランク・ウィルチェックは、洗剤の商品名から名前を取ったと語っています。物理学の悩みを洗い流す、というしゃれでした。

三つ目は、宇宙が生まれた直後にできたかもしれない小さなブラックホール、「原始ブラックホール」です。ほかにも、重力の法則を修正する説を支持する研究者は今もいます。ただし、どの候補も決定的な証拠はまだ見つかっていません。

2025年と2026年、「当たりかもしれない」二つの報告

2025年11月、東京大学の戸谷友則教授が、NASAのフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡のデータを分析した論文を発表しました。天の川銀河の中心のまわりから、ダークマターのハローと同じような形で、20ギガ電子ボルトほどのガンマ線が出ているというのです。陽子の約500倍の重さのWIMPどうしがぶつかって消える、という予想とよく合うと述べました。ただし戸谷教授自身も、ほかの研究者による検証が必要だとしています。銀河の中心にはガンマ線を出す天体がひしめいていて、2009年ごろにも似たような信号が見つかり、その後ダークマターとは結びつかなかった経緯があります。懐疑的な研究者も少なくありません。

もう一つが、2026年9月1日に日本で開かれた国際会議で発表された「LZ(エルゼット)実験」の結果です。LZは、アメリカ・サウスダコタ州の元金鉱の地下およそ1500メートルに置かれた検出器で、10トンの液体キセノンを零下100度以下に冷やしてダークマターがぶつかるのを待っています。2023年3月から2024年4月までの220日分のデータを調べたところ、2023年6月16日に、既知の雑音ではうまく説明できない反応が1回だけ記録されていました。

偶然の雑音で起きる確率は約0.5%。科学で「発見」と呼ぶには、偶然の確率が約350万分の1以下である必要があり、まだ遠く及びません。共同代表のリック・ゲイツケル教授は「たった1回なので先走りたくない。ダークマターを見たとは主張していない」と述べています。LZは少なくとも2028年まで観測を続け、この信号が本物なのか、たまたまなのかを確かめていく予定です。

まとめ

ダークマターは、光を出さず、重力だけを及ぼす正体不明の物質で、宇宙の物質の約85%を占めると考えられています。1933年にツビッキーが銀河団の重さが足りないことに気づき、1970年代にはルービンが銀河の外側の速すぎる回転を示しました。2006年の弾丸銀河団では、見えない重さが普通の物質から離れて存在する様子がとらえられています。正体の候補にはWIMP、アクシオン、原始ブラックホールなどがありますが、まだどれも決まっていません。2025年のガンマ線の報告と、2026年のLZのたった1回の信号は、どちらも「かもしれない」の段階です。宇宙の大部分を占める行方不明者は、今もすぐそばを素通りしているのかもしれません。

出典・参考情報

  • [B] Lawrence Berkeley National Laboratory「LZ Sees Surprising Result in Search for Dark Matter」(2026年9月1日)
  • [B] Brown University「LZ experiment sees surprising result in search for dark matter」(2026年9月1日)
  • [B] Northwestern Now「Dark matter detector picks up a mysterious signal」(2026年9月)
  • [B] ABC News(オーストラリア)「'Exciting hint' of dark matter spotted by LUX-ZEPLIN detector」(2026年9月2日)
  • [A] 東京大学「After nearly 100 years, scientists may have detected dark matter」(2025年11月26日)
  • [A] Journal of Cosmology and Astroparticle Physics「20 GeV halo-like excess of the Galactic diffuse emission and implications for dark matter annihilation」(戸谷友則、2025年11月)
  • [B] EarthSky「ダークマター検出の主張への専門家の見方」(2025年)
  • [A] NASA / Chandra X-ray Center「NASA Finds Direct Proof of Dark Matter」(2006年8月21日)
  • [A] ESA「Planck reveals an almost perfect Universe」(2013年3月21日)
  • [A] Rubin & Ford「Rotation of the Andromeda Nebula from a Spectroscopic Survey of Emission Regions」The Astrophysical Journal 159(1970年)
  • [B] APS News「This Month in Physics History」(2023年6月・ヴェラ・ルービンの回)
  • [B] Wikipedia「Fritz Zwicky」「Axion」「Modified Newtonian dynamics」「Euclid (spacecraft)」(経過・数字の確認)

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