宇宙・地球の謎

二度と戻らない客が、生まれた場所を置いていった――太陽系を通り抜けた氷は、マイナス243度でできていた

宇宙・地球の謎公開 2026年9月11日更新 2026年10月11日ザツレコ編集部
二度と戻らない客が、生まれた場所を置いていった――太陽系を通り抜けた氷は、マイナス243度でできていた

2025年7月に見つかった三例目の恒星間天体 3I/ATLAS。そのプラズマの尾に残っていた窒素の量から、生まれた場所の温度がマイナス243度以下だったと分かった。異様に重い水と少なすぎる重い炭素は、この氷が銀河の若いころからあったことも告げている。

2025年7月1日、チリの砂漠に立つ望遠鏡が、見慣れない光の点を拾った。その望遠鏡は、地球にぶつかりそうな小惑星を探すために作られたものだ。ところが見つかったのは、ぶつかる心配のまったくない、けれども二度と戻ってこない客だった。太陽系の外から来て、太陽系を通り抜けて、そのまま星の海へ帰っていく。人類が確認した、三例目の恒星間天体である。名前を 3I/ATLAS という。そして2026年9月、その尾に残っていた窒素の量から、生まれた場所の温度が割り出された。答えはマイナス243度。ついでに言えば、この氷は銀河を百億年さまよってきた可能性がある。今日はその、通り過ぎていった氷の話をする。あっても無くても人生に影響しない、極上のムダ知識をインストールしていこう。

小惑星を探す望遠鏡が、避けようのない客を見つけた

その望遠鏡は ATLAS といって、正式には小惑星地球衝突最終警報システムという、やや物騒な名前がついている。四台が夜ごと空を撮影し、前の晩の画像と見比べて動いた点を探す。地球に向かってくる岩を、ぶつかる前に見つけるための仕組みだ。

2025年7月1日、チリのリオ・ウルタドにある一台が拾ったその点は、木星の軌道の内側、太陽から約6億7000万キロのあたりにいた。問題は速さである。時速およそ22万キロ。太陽の重力に捕まった天体が、その距離で出せる速さをはるかに超えていた。つまりこれは、太陽系の住人ではない。どこか別の星のまわりで生まれ、なにかの拍子に弾き飛ばされ、暗闇を漂った末に、たまたま太陽系を横切ろうとしている。そういう氷の塊だった。

こういう天体がはっきり確認されたのは、2017年のオウムアムア、2019年のボリソフ彗星に続いてこれが三例目になる。頭にある「3I」は、三番目の恒星間天体という意味の、そっけない通し番号だ。

プラズマの尾を、十七分間ずつ三回撮った

恒星間天体の何が厄介かというと、二度と来ないことである。探査機を送る時間はない。近づいてくる数か月のあいだに、取れるだけ取るしかない。

イギリスとスペインの研究チームが選んだのは、カナリア諸島ラ・パルマ島にある口径4.2メートルのウィリアム・ハーシェル望遠鏡と、そこに載っている WEAVE という新しい分光器だった。分光器は、光を波長ごとにばらして、どの成分がどれだけ含まれているかを読み取る装置である。WEAVE には視野を広く取れるモードがあり、彗星のように薄く広がった相手を面ごと捉えられる。

観測は2025年11月30日と12月2日の二晩。一晩につき1,020秒、つまり十七分間の露光を三回ずつ重ねた。狙ったのは彗星の頭ではなく、太陽風に吹き流されて後ろへ伸びる「プラズマの尾」のほうだ。ここには、太陽の紫外線に叩かれて電気を帯びた分子が並んでいる。

結果として、五種類のイオンが同時に検出された。窒素分子、一酸化炭素、二酸化炭素、水、そして炭化水素。恒星間天体から、これだけの成分がひとまとまりに読み取れたのは初めてだという。

窒素と一酸化炭素の比率が、温度計になる

五つのうち、研究チームが注目したのは最初の二つ、窒素分子と一酸化炭素の比率だった。

なぜその二つなのか。窒素分子と一酸化炭素は、分子としての重さも大きさもよく似ている。ところが、凍りつく温度がわずかに違う。一酸化炭素のほうが、ほんの少しだけ凍りやすい。だから、少し高めの温度で氷ができると一酸化炭素ばかりが取り込まれ、窒素は逃げてしまう。うんと冷たい場所でできた氷だけが、逃げ足の速い窒素まで閉じ込めていられる。

つまり、氷の中に窒素がどれだけ残っているかは、その氷が生まれたときの温度を記録した目盛りになる。しかもこの目盛りは、何十億年たっても消えない。氷が太陽に近づいて溶け出すまで、ずっと真空の冷凍庫にしまわれているからだ。

3I/ATLAS の尾では、窒素分子のイオンが、一酸化炭素のイオンのおよそ2.3パーセントあった。太陽系で生まれた彗星の多くと比べると、これはかなり窒素が多い。ここから逆算された生成温度が、30ケルビン以下。摂氏でいうとマイナス243度前後である。絶対零度まで、あと30度ほどしかない。研究を率いたノーサンブリア大学のレア・フェレレックは、この値は自分の星から遠く離れた、極端に冷たい場所で生まれたことを示していると説明している。

水が、重すぎた

温度の話には、まったく別の角度からの裏づけがある。水だ。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、2025年8月から 3I/ATLAS を追いかけ、水や二酸化炭素、メタン、エタンといった分子の指紋を読み取っていた。そこで見つかったのが、異様に重い水である。

水素には、中性子を一つ余分に持つ重水素という仲間がいて、それでできた水は普通の水よりわずかに重くなる。この混ざり具合も、水ができた場所の冷たさで決まる。冷たいほど、重水素が濃くなる。

3I/ATLAS の水に含まれる重水素は、太陽系の彗星の平均のおよそ30倍、地球の海と比べれば40倍以上あった。これもまた、30ケルビンより冷たい場所でしか起こらない濃さだ。窒素から出した答えと、水から出した答えが、別々の望遠鏡と別々の分子を通って、同じところを指した。

さらに奇妙だったのは、炭素の重い同位体が予想より少なかったことである。重い元素は、星が燃え尽きて撒き散らすことで銀河に増えていく。それが乏しいということは、この氷は銀河がまだ若かった時代に生まれた可能性がある。そこから見積もられた年齢は、百億年から百二十億年。宇宙そのものの年齢に、かなり近い数字だ。

「あれは宇宙船だ」と言った人がいた

ここまでは、地味に積み上がった観測の話である。ところが 3I/ATLAS には、もう一つ別の話がくっついていた。あれは自然の彗星ではなく、異星の技術で作られた物体ではないか、という説だ。

言い出したのはハーバード大学のアヴィ・ローブという天文学者で、彼はこの天体について十ほどの「異常」を並べた。軌道が惑星の並ぶ面にきれいに乗っていること。太陽の側へ向かって噴き出す尾があること。ニッケルと鉄の比率が変わっていること。有名な「Wow! シグナル」の方向と9度しか離れていないこと。重力だけでは説明できない加速をしていること。

この一覧に、ペンシルベニア州立大学の天文学者ジェイソン・ライトが一つずつ答えている。ライトは地球外知性の探索を専門にする研究センターの責任者で、宇宙人などいない、という立場の人ではない。そのうえで、彼の反論はおおむねこうなる。軌道が惑星の面に近いという珍しさは、見てから確率を計算しているぶん水増しされている。太陽向きの尾は五十年ほど前から他の彗星でも観測されていて、多くはないが特別でもない。ニッケルの比率は、太陽から遠い彗星の化学として説明がつく。重力以外の加速も、氷が溶けてガスを噴けば当然起きることだ。Wow! シグナルとの9度は、天文学の感覚では「まったく別の方向」になる。

NASA の立場はもっと単純で、氷の核があり、ガスと塵の雲をまとっているのだから彗星だ、というものである。断定を避けて言うなら、こうなるだろう。異星の技術である可能性がゼロだと証明されたわけではないが、観測されたものは一つ残らず、彗星として説明がついてしまった。

もう二度と戻ってこない

3I/ATLAS が太陽にいちばん近づいたのは2025年10月30日、およそ2億1000万キロの距離だった。地球にいちばん近づいたのは2025年12月19日で、こちらは2億7000万キロほど離れている。ぶつかる心配はもとより、肉眼で見えることもなかった。

核の大きさは、いまだにはっきりしない。小さく見積もって440メートル、大きく見積もって5.6キロ。自分が噴き出したガスと塵に包まれていて、中身の輪郭が見えないからだ。

そして今、この氷は太陽から遠ざかっている。来たときと同じ速さで出ていき、二度と戻らない。残ったのは、望遠鏡が撮った数時間分のデータだけである。

まとめ

小惑星を探すための望遠鏡が、ぶつからない客を見つけた。尾に残っていた窒素の量は、生まれた場所がマイナス243度だったと告げ、水に混じった重水素と、少なすぎる重い炭素は、その氷が銀河の若いころからあったと告げている。

異星の宇宙船だという説も出たが、並べられた「異常」は一つずつ、彗星として説明がついた。むしろ面白いのは、そちらではない。百億年のあいだ誰にも見られずに漂っていた氷が、たまたま人類が望遠鏡を組み上げたあとの、この数か月に通りかかった、ということのほうだ。

あと百年早く来ていたら、誰も気づかないまま、通り過ぎていた。

出典・参考情報

  • [A] Monthly Notices of the Royal Astronomical Society「Ion abundances in the plasma tail of 3I/ATLAS show that it is N2-rich」(2026年9月10日)
  • [A] NASA Science「Comet 3I/ATLAS Facts and FAQs」
  • [B] phys.org「Interstellar visitor 3I/ATLAS carries clues from the frozen outskirts of another star system」(2026年9月)
  • [B] Universe Today「New Revelations About the Origin of Interstellar Comet 3I/ATLAS」(2026年9月)
  • [B] Sky & Telescope「Interstellar Comet 3I/ATLAS Has Cold, Ancient Origins」
  • [B] The Brighter Side of News「Nitrogen in 3I/ATLAS reveals an extremely cold birthplace beyond the solar system」(2026年9月)
  • [B] AstroWright(ジェイソン・T・ライト/ペンシルベニア州立大学)「Loeb's 3I/ATLAS "Anomalies" Explained」

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