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数百通の「言葉のサラダ」――インターネット最古の謎、マルコビアン・パラレル・デニグレイト

雑学・トリビア倉庫公開 2026年7月31日更新 2026年10月13日ザツレコ編集部
数百通の「言葉のサラダ」――インターネット最古の謎、マルコビアン・パラレル・デニグレイト

1996年、Usenetに突然あふれた数百通の意味不明な投稿「マルコビアン・パラレル・デニグレイト」。件名はすべて同じ、本文は英単語の羅列。暗号か、AIか、ただのスパムか。16年後に「ネット最古の謎」として発掘された、この奇妙な事件の全貌を、事実と諸説を分けてたどる。

1996年、まだ多くの人がインターネットを電話回線でつないでいたころ。世界中の掲示板に、意味不明な英単語をただ並べただけの、奇妙な投稿が数百通、いっせいにあふれ出した。件名はどれも同じ、「Markovian parallax denigrate(マルコビアン・パラレル・デニグレイト)」。誰が、何のために送ったのか。暗号なのか、ただのいたずらなのか。30年近くたった今も、その答えははっきりしない。今日は「インターネット最古の謎」とも呼ばれる、この不思議な事件をたどっていこう。あっても無くても人生に影響しない、けれど妙に心に残るムダ知識だ。

1996年、突然あふれた「言葉のサラダ」

1996年8月5日ごろのこと。当時、人々が情報交換に使っていた「Usenet(ユーズネット)」という巨大な掲示板網に、あるおかしな投稿が現れ始めた。宗教の話をする場所にも、技術を語る場所にも、脈絡なく同じ形の書き込みが投下されていく。その中身は、英単語をただでたらめに並べただけの文字列だった。たとえば「jitterbugging McKinley Abe break Newtonian inferring caw update」といった具合。文法も意味もなく、まるで辞書を引き裂いて風にまいたような、いわゆる「言葉のサラダ」である。読んでも何ひとつ伝わってこない。それが、次から次へと、あちこちの掲示板に投稿されていった。

数百通、すべて同じ件名

奇妙だったのは、その数と統一感だ。投稿は一通や二通ではなく、数百通にのぼった。そして本文の中身はどれもバラバラなのに、件名だけは判で押したように同じ、「Markovian parallax denigrate」。この三つの単語自体も、つなげて意味をなすわけではない。強いて訳せば「マルコフ的な視差、こきおろし」といった、やはり支離滅裂な言葉の並びだ。当時のユーザーたちの多くは、これを単なる迷惑投稿、つまりスパムの一種として受け流した。実際、ネットにはこの種のいたずらやゴミ投稿はいくらでもあった。こうして事件は、いったん誰の記憶からも消えかけていく。だが、この奇妙な言葉の羅列は、思わぬ形でよみがえることになる。

16年後、「ネット最古の謎」として発掘される

事件が「謎」として脚光を浴びたのは、投稿から実に16年もたった2012年のことだった。ニュースサイト「The Daily Dot」の記者ケビン・モリスが、この古い投稿群を掘り起こし、「インターネットでもっとも古く、もっとも奇妙な謎」として紹介したのだ。この記事をきっかけに、マルコビアン・パラレル・デニグレイトは一躍、ネット好きたちの関心の的となる。暗号が隠されているのではないか。初期の人工知能が生み出した言葉ではないか。何者かの秘密のメッセージではないか――さまざまな憶測が飛び交い、後にはサイキャダ3301やパブリウス・エニグマといった、他の有名なネットミステリーと並べて語られるようになった。一つの古いスパムが、伝説へと昇格した瞬間だった。

差出人欄に浮かんだ、実在の名前

謎を深めた要素のひとつが、差出人のメールアドレスだった。投稿の一部には「Susan_Lindauer(スーザン・リンダウアー)」という名前を含むアドレスが残されていた。この名前は、後にアメリカで実在の人物として知られることになる同姓の人物と重なっていたため、一時「発信源では」と取りざたされた。しかし2012年、記者モリスが本人に取材したところ、その人物は投稿との関わりをきっぱりと否定している。有力とされる見方はこうだ。差出人欄は「なりすまし(スプーフィング)」で偽装されていた、というもの。当時のメールは送信元を簡単に詐称できたため、まったく無関係な人物のアドレス――具体的には、たまたま同じ名前だったウィスコンシンの大学生のものが、真犯人を隠すために使われた可能性が指摘されている。つまり、名前の一致は、単なる偶然と偽装の産物だったというわけだ。実在の人物を根拠なく犯人扱いしないよう、ここは慎重に見ておきたい。

正体をめぐる諸説――マルコフ連鎖とボット

では、あの言葉のサラダは、いったい何だったのか。ここからは確証のない「諸説」の領域になる。もっとも有力視されているのが、件名にもある「マルコフ連鎖」という仕組みを使った、テキスト自動生成の実験だという説だ。マルコフ連鎖とは、ざっくり言えば「ある単語の次に来やすい単語」を確率的につないでいく手法で、文章っぽいけれど意味のない文字列を機械的に量産できる。あの投稿の見た目は、まさにこの手のプログラムが吐き出しそうな代物だった。ほかにも、初期のチャットボットや文章生成プログラムの試作だったという説、あるいは単なる愉快犯・荒らしがまき散らしたスパムにすぎないという説もある。件名にわざわざ「Markovian(マルコフ的)」と入れているあたり、作者自身がタネ明かしをしていた、とも読める。

「謎は、あとから作られた」のかもしれない

そして、もっとも冷静な見方も紹介しておこう。2020年、メディア「The A.V. Club」は、この事件について興味深い指摘をした。マルコビアン・パラレル・デニグレイトは、1996年当時はほとんど話題になっておらず、2012年の記事が出て初めて「謎」として広まった――つまり、事件そのものよりも「後年のメディア報道が謎を育てた」のではないか、というのだ。同じ記事は、ある動画制作者が「これはおそらく、隠された意味など何もない、ただのスパムだ」と結論づけたことにも触れている。数百通の意味不明な投稿が、実は最初から答えの出ている「ただのいたずら」だった可能性は、決して低くない。それでも人は、意味のなさそうなものにこそ意味を探してしまう。マルコビアン・パラレル・デニグレイトが今なお語り継がれるのは、謎そのものより、「謎を求めずにはいられない私たち」を映す鏡だからなのかもしれない。今日も一つ、ムダな知識を、あなたの脳の墓場に。

出典・参考情報

  • [B] Wikipedia「Markovian Parallax Denigrate」(経緯・投稿例・諸説)
  • [B] The Daily Dot, Kevin Morris(2012年/「ネット最古の謎」として発掘・スプーフィング説)
  • [B] Atlas Obscura「The Gibberish That Sparked One of the Internet's Oldest Unsolved Mysteries」
  • [B] The A.V. Club(2020年/「後年のメディアが謎を育てた」という指摘)
  • [B] Washington Post「Five of the Internet's eeriest, unsolved mysteries」(2014年)

信頼度 A=一次/公的、B=定評メディア・専門書、C=個人発信。事実・諸説・創作を区別して記載。実在の人物については本人が関与を否定しており、なりすまし説を明記のうえ、犯人扱いを避けています。

この記事は事実と説・伝承を区別して記述しています。

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