生物・自然の奇妙

深海生物――光の届かない地球最大のすみかで、生き物の4分の3は自分で光る。オスが消えるチョウチンアンコウ、5年食べなかったダイオウグソクムシ、100年見つからなかったイカ、太陽のいらない楽園まで完全解説

生物・自然の奇妙公開 2026年10月18日更新 2026年10月24日ザツレコ編集部
深海生物――光の届かない地球最大のすみかで、生き物の4分の3は自分で光る。オスが消えるチョウチンアンコウ、5年食べなかったダイオウグソクムシ、100年見つからなかったイカ、太陽のいらない楽園まで完全解説

水深200メートルより深い、光の届かない深海。生き物の4分の3が自ら光り、チョウチンアンコウのオスはメスの体の一部になる。1869日なにも食べなかったダイオウグソクムシ、100年ぶりに生きた姿が撮られたダイオウホウズキイカ、太陽のいらない熱水噴出孔の生態系、2026年の新種発見と海底採掘まで解説。

2025年3月9日、南大西洋のサウスサンドウィッチ諸島の沖、水深600メートル。無人探査機のカメラの前を、体の透けた長さ30センチほどのイカが、ゆっくりと横切りました。ダイオウホウズキイカの子どもです。大人になると体重500キロにもなり、地球でいちばん重い無脊椎動物とされるこのイカは、1925年に名前が付けられてから100年間、生きて泳ぐ姿を一度も確かめられていませんでした。光の届かない海には、いまもこうした生き物があふれていて、2026年10月にも新種の知らせが続きました。暗闇の生き物たちの姿と暮らしを、順にたどります。あっても無くても人生に影響しない、極上のムダ知識をインストールしていこう。

水深200メートルの先――人類が見た海底は0.001%

深海とは、ふつう水深200メートルより深い海を指します。海に差し込んだ太陽の光は、このあたりでほとんど尽きてしまい、植物プランクトンが光合成をできなくなるためです。1000メートルまではかすかに青い光の残る「トワイライトゾーン」、その下は真っ暗な「ミッドナイトゾーン」で、6000メートルを超える海溝の中は「ハダル」と呼ばれます。海の平均の深さは約3700メートルで、海水の大半は光の届かない側にあります。

条件は過酷です。水圧は10メートル深くなるごとに約1気圧ずつ増え、水深1000メートルでは1平方センチにおよそ100キロの重さがかかります。水温は4度前後まで下がり、食べ物は、上の明るい海から雪のように沈んでくる死骸やふんの粒、いわゆる「マリンスノー」に頼るしかありません。

それでも深海は、生き物の宝庫です。海の新種探しを進める国際プロジェクト「オーシャン・センサス」によると、人間がこれまで直接目で見た海底は、全体の0.001パーセントにも届きません。2026年5月には、この1年で1121種の新種の候補を見つけたと発表しました。水深3601メートルでは、エビの仲間を捕まえて食べる肉食の海綿も見つかっています。さらに2026年10月5日には、アルゼンチン沖の深い海底谷で、57の新種と5つの新しい属を確かめたと発表されました。調べた試料はまだ全体の1割ほどで、確かめたものはすべて新種だったといいます。

深海の生き物の4分の3は、自分で光っている

暗い深海で、生き物たちが頼りにしているのが「光」です。2017年、アメリカのモントレー湾水族館研究所のセヴリーヌ・マルティーニとスティーヴン・ハドックは、無人探査機の240回の潜航で集めた35万件を超える観察記録を調べました。海面から水深およそ4000メートルまでに映った生き物のうち、自分で光を出すものは全体の76パーセントに上りました。深海では、光ることは珍しい特技ではなく、ごくふつうの性質だったのです。

光の使い道はさまざまです。上から差すわずかな光にまぎれるよう、お腹を光らせて自分の影を消すもの。光で獲物をおびき寄せるもの。襲われた瞬間にまぶしく光り、敵を驚かせたり、その敵を食べてくれるもっと大きな捕食者を呼び寄せたりするものもいます。深海の光の多くは、水中で遠くまで届く青や緑で、多くの生き物は赤い光が見えません。ところがワニトカゲギスの仲間の一部は、ほかの生き物には見えない赤い光を出し、自分だけが見える明かりで獲物を照らすと考えられています。

光を探すための目も、奇妙な形に進化しました。水深600メートルから800メートルに暮らすデメニギスは、頭のてっぺんが透明なドームになっていて、その中に緑色の筒のような目が収まっています。2009年、同じ研究所のブルース・ロビソンらは、この目が透明な頭の中でくるりと回り、真上も前も見られることを確かめました。頭上を漂うクラゲや獲物の影を、下から見つけるための仕組みだと考えられています。

オスは食べることをやめ、メスの体の一部になる

深海の釣り人として知られるのが、チョウチンアンコウの仲間です。世界の海の水深300メートルから5000メートルに、およそ160種がいるとされます。メスの頭から伸びた竿の先には、光る細菌を住まわせた「ちょうちん」があり、近寄ってきた獲物を大きな口でひと飲みにします。

奇妙なのはオスです。種類によっては、オスはメスよりはるかに小さく、メスを見つけるとその体にかみついて離れなくなります。やがて二匹の皮膚と血管はつながり、オスはメスの血液から栄養をもらって生きる、精子を作るための器官のような存在になります。極端な例では、メスの体長はオスの60倍以上、体重はおよそ50万倍にもなります。広くて暗い深海では、相手にめぐり会えること自体がまれです。一度会えたら二度と離れない「性的寄生」という戦略だと考えられています。

ふつうの動物なら、他人の体がくっつけば、臓器移植の拒絶反応のように免疫が攻撃します。なぜアンコウは平気なのか。2020年7月、ドイツのマックス・プランク研究所のトーマス・ベームと、アメリカのワシントン大学のテッド・ピーチらは、科学誌サイエンスで答えを示しました。体をつなげる種類では、拒絶反応の鍵になる遺伝子の多くが失われ、侵入者を殺す働きをもつ免疫細胞もほとんど働いていなかったのです。抗体を持たない種類までいました。ベームは、人間で同じことが起きれば命にかかわる免疫不全になると述べています。アンコウは、免疫の一部を手放すことで、相手と一体になる道を選んだことになります。

5年間なにも食べなかったダイオウグソクムシ

深海には、浅い海の仲間より体が大きくなる生き物がいます。「深海巨大症」と呼ばれる現象です。冷たい水では代謝がゆっくりになり、長生きして大きく育つこと、食べ物の少ない環境では、大きな体のほうがえさを探して遠くまで動け、栄養をためておけることなどが、理由の候補として挙げられています。

その代表が、ダンゴムシに近い仲間のダイオウグソクムシです。成長すると45センチほどになり、水深200メートルから1000メートルほどの海底で、沈んできた死骸を食べて暮らしています。日本で一躍有名になったのは、三重県の鳥羽水族館にいた1匹です。2007年9月にやって来たこの個体は、2009年1月にアジを1匹食べたのを最後に、えさを口にしなくなりました。そして2014年2月14日に死ぬまで、1869日、5年あまりもの間、何も食べなかったのです。

2026年10月8日には、この仲間の新種が意外な場所から見つかりました。ドイツのテュービンゲン大学で、1980年代から授業の標本として置かれていた体長32センチの1匹が、調べ直したところ新種だとわかり、科学誌サイエンティフィック・リポーツで発表されたのです。標本はカリブ海のプエルトリコ産でした。深海の生き物は、大学の棚の中にも眠っていたのです。

伝説のクラーケンは実在した――ダイオウイカとダイオウホウズキイカ

船を海に引きずり込む怪物、クラーケン。その正体の一つとされるのが、ダイオウイカです。長い触腕まで入れると10メートルを超えることもあります。浜に打ち上げられた死骸は昔から知られていましたが、生きた姿はなぞでした。2004年、国立科学博物館の窪寺恒己らは、小笠原諸島の沖で、水深900メートルにいるダイオウイカの撮影に初めて成功しました。そして2012年7月、窪寺らは潜水艇に乗り込み、父島の東およそ15キロ、水深630メートルで、深海を泳ぐダイオウイカの動画を撮りました。約100回の潜航の末のことで、窪寺は、輝いていて、とても美しかったと語っています。

ダイオウイカより重いのが、冒頭のダイオウホウズキイカです。南極の周りの冷たい海にすみ、長さ7メートル、体重500キロに達するとされます。腕の吸盤に回転するかぎ爪を持ち、動物の中で最大級の目を持つことでも知られます。それでも長い間、手がかりはマッコウクジラや海鳥の胃から見つかる体の一部と、漁の網にかかった死骸だけでした。

2025年3月の映像は、アメリカのシュミット海洋研究所の調査船が、オーシャン・センサスの調査の途中で撮ったものです。映ったのは体が透明な子どもで、大人になると透明さは失われるといいます。

太陽のいらない楽園――熱水噴出孔と、鉄のよろいをまとう巻き貝

1977年2月17日、アメリカの潜水艇アルビンは、ガラパゴス諸島の北東、水深およそ2500メートルの海底に降りました。乗っていたのは、海底から温かい水が湧く場所を調べに来た地質学者たちでした。ところがそこには、白い二枚貝、ムール貝、真っ赤な先端を持つ巨大な管の虫などが、びっしりと群れていました。生物学者は一人も乗っておらず、標本を保存する薬が足りなくなって、ウォッカで代用したという話も残っています。

彼らを支えていたのは、太陽ではありませんでした。噴き出す水に含まれる硫化水素などの化学物質から、細菌がエネルギーを取り出す「化学合成」です。ハオリムシの一種のジャイアントチューブワームには、口も胃もありません。体の中に細菌を住まわせ、その細菌が作る栄養で生きています。長いものは2メートルを超えます。

インド洋の熱水噴出孔には、さらに奇妙な生き物がいます。ウロコフネタマガイ、英語で「スケーリーフット」と呼ばれる巻き貝です。殻の外側と足のうろこが硫化鉄でおおわれ、鉄のよろいをまとったような姿をしています。知られている生息地は、インド洋の3か所の噴出孔だけです。2019年7月、国際自然保護連合は、この貝を絶滅危惧種に指定しました。深海の鉱物資源の採掘が理由になった、初めての例とされます。

採掘の話は、いまも続いています。太平洋の深い海底には電池の材料になる金属の塊が広がり、2026年にはその海域から体長7ミリほどの新種のヨコエビも記載されました。アメリカでは海洋大気庁が企業の採掘申請の審査を進め、2026年10月19日までを意見募集の期間としています。一方、国際海底機構のルールはまだまとまらず、多くの国が採掘の一時停止を求めています。まだ名前もない生き物たちのすみかを、どう扱うのか。その答えは出ていません。

まとめ

深海は水深200メートルより深い、光の届かない海で、人類が直接見た海底は0.001パーセントにも届きません。そこでは生き物の4分の3が自分で光り、チョウチンアンコウのオスはメスの体の一部になり、ダイオウグソクムシは5年あまり何も食べずに生きました。100年間見つからなかったダイオウホウズキイカは2025年に初めて生きた姿が映り、太陽の代わりに化学物質で回る熱水噴出孔の楽園は、いま採掘の行方とともに注目されています。2026年の秋にも新種の発表が続き、深海の生き物の図鑑は、まだほとんど白紙のままです。

出典・参考情報

  • [A] Schmidt Ocean Institute プレスリリース(2025年4月15日・ダイオウホウズキイカの生きた姿の初映像、サウスサンドウィッチ諸島沖・水深600m)
  • [A] Martini, S. & Haddock, S.H.D.「Quantification of bioluminescence from the surface to the deep sea demonstrates its predominance as an ecological trait」Scientific Reports(2017年)
  • [A] Swann, J.B. ほか「The immunogenetics of sexual parasitism」Science(2020年7月30日)/University of Washington News(同日)
  • [A] Robison, B.H. & Reisenbichler, K.R.「Macropinna microstoma and the paradox of its tubular eyes」Copeia(2009年)
  • [A] Kubodera, T. & Mori, K.「First-ever observations of a live giant squid in the wild」Proceedings of the Royal Society B(2005年)
  • [A] Woods Hole Oceanographic Institution「Ocean Zones」
  • [A] Federal Register「Deep Seabed Mining: Notice of Receipt of Consolidated Application…」(2026年8月19日・NOAA)
  • [B] Phys.org/AFP「Giant squid filmed in Pacific depths, Japan scientists report」(2013年1月)
  • [B] SciTechDaily「Scientists Discover a Mysterious Giant Deep-Sea Creature Hiding in Plain Sight for 40 Years」(2026年10月15日・Scientific Reports 2026年10月8日掲載の Kästle & Werneburg の論文)
  • [B] Mongabay「Ghost shark, carnivorous sponge among 1,000 newly discovered marine species」(2026年5月20日)
  • [B] Popular Science「57 new species discovered in deep-sea canyon near Argentina」(2026年10月5日)
  • [B] Scientific American「Ocean census reveals more than 1,100 new species」(2026年)
  • [B] EARTH Magazine「Benchmarks: February 17, 1977: Hydrothermal vents are discovered」
  • [B] Live Science「This Iron-Shelled Snail Is Totally Metal … And Now It's Endangered」(2019年7月)
  • [B] Foley Hoag「Analyzing the Legal Landscape Since Trump's 2025 Deep Sea Mining Executive Order」(2026年10月)
  • [B] imidas「ダイオウグソクムシ」/ウォーカープラス・KAI-YOU の鳥羽水族館関連報道(2012〜2014年)
  • [B] Wikipedia「Riftia」「Mirabestia maisie」(数値・経過の確認)

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