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チョリスモ――収入はレアルの3分の1以下で二強を倒したシメオネの「一試合ずつ」。ビジネスに使える3か条と、15年政権の影

雑学・トリビア倉庫公開 2026年10月20日更新 2026年10月24日ザツレコ編集部
チョリスモ――収入はレアルの3分の1以下で二強を倒したシメオネの「一試合ずつ」。ビジネスに使える3か条と、15年政権の影

スペインの強豪アトレティコ・マドリードを率いるディエゴ・シメオネの哲学「チョリスモ」。収入はレアルの3分の1以下なのに二強を崩した「一試合ずつ」の短期集中、才能より規律、主力を売っても残る「型」をビジネス目線で解説。チャンピオンズリーグ決勝2敗や5シーズン無冠という影も検証します。

サッカーに興味がない人も、今日は「チョリスモ」という言葉に少しだけ付き合ってください。スペインの強豪アトレティコ・マドリードを2011年から率いる監督、ディエゴ・シメオネ(Diego Simeone)の愛称「チョロ」から生まれた言葉で、彼の戦い方と考え方そのものを指します。お金のないチームが、世界屈指のお金持ちクラブ2つを倒した。その仕組みは、スペインでは経営の研究にまで持ち込まれました。本来ここは役に立たない雑学の倉庫ですが、今日の話は、うっかり明日の会議で使えてしまうかもしれません。その危うさも含めて、あっても無くても人生に影響しない、極上のムダ知識をインストールしていこう。

収入はレアルの3分の1以下、それでも二強を崩した男

2011年12月、シメオネがアトレティコの監督に就任したとき、チームはリーグ10位で、首位とは勝ち点21も離れていました。シメオネは選手時代、このクラブで1996年のリーグと国王杯の二冠を経験したOBです。ただ監督としてはアルゼンチンとイタリアで経験を積んだばかりで、期待より不安の大きい船出でした。

スペインのリーグは長いあいだ、レアル・マドリードとFCバルセロナの「二強」のものでした。お金の差は数字にはっきり出ています。会計事務所デロイトの調べでは、2013-14シーズンの収入はレアルが5億4950万ユーロで世界1位、バルセロナが4億8460万ユーロで4位。対するアトレティコは1億6990万ユーロで15位でした。レアルの3分の1以下です。

ところが、そのシーズンにアトレティコはリーグを制します。最終節、敵地カンプ・ノウでバルセロナと引き分け、勝ち点90で優勝を決めました。同点のゴールは守備の要ディエゴ・ゴディンのヘディング。失点26はリーグ最少で、リーグ優勝は1995-96シーズン以来18年ぶりでした。就任から2年半足らずで、10位のチームを王者に変えたことになります。

シメオネの下でアトレティコが獲ったタイトルは、リーグ2回、ヨーロッパリーグ2回、UEFAスーパーカップ2回、国王杯1回、スペイン・スーパーカップ1回。資金で劣るチームが、なぜこれだけ勝てたのか。ここからがチョリスモの中身です。

「一試合ずつ」という戦略

チョリスモを一言で表すなら、シメオネが繰り返してきた「パルティード・ア・パルティード(partido a partido)」、つまり「一試合ずつ」です。優勝の可能性を聞かれても、次の試合のことしか話さない。2013-14シーズンの終盤には、これが「一つ一つが決勝」という言い方に変わっていったと、スペインの新聞プブリコは伝えています。2025年1月の記者会見でも、「リーグは一試合ずつなのに、チャンピオンズリーグでは決勝を目指すのか」と問われ、「リーグには決勝がない。あるのは一試合ずつの戦いだ」と答えています。

精神論に聞こえますが、資源の少ない組織にとっては筋の通った選び方でもあります。シーズン全体の計画を立てても、主力のけがや移籍ひとつで崩れる。それなら目の前の90分に、使える力をすべて注いだほうが勝ち点は積み上がります。

この考え方は経営の研究にもなりました。2016年、スペインの研究者3人がシメオネの手法を企業に当てはめた論文「Game by Game(一試合ずつ)」をまとめ、経営誌ハーバード・ビジネス・レビューに載ったと報じられました。要点は、長期戦略で動ける大企業に対して、資源の限られた企業は短い期間の目標に力を集め、人を育て続け、結束したチームで環境の変化に合わせるべきだ、というものです。結論はやや身もふたもなく、大企業に勝ちたければ努力と献身を倍にするしかない、とまとめられています。

才能より規律――全員で守るチームの作り方

アトレティコの試合を見ると、まず目に入るのは守備です。4人ずつ2列に並んだ選手が、ボールの位置に合わせて一斉に横へ縦へと動き、ゴール前に隙間を作らない。ボールを持つ時間が短くても気にせず、奪ったら少ない人数で一気に攻める。見た目の華やかさより、勝ち点を取る確率を優先する戦い方です。

この形は、一人の天才ではなく全員の規律で成り立っています。誰か一人でも手を抜けば穴が開く。だからシメオネは努力を交渉の対象にしません。就任直後の2012年には「アトレティコのようなユニフォームを着るなら、言い訳は許されない」と語り、2016年の著書『Creer(信じる)』では、すべての戦いは最初の1分から始まる、連帯と努力と忍耐がなければ夢はかなわない、と書いています。

規律の効き目がはっきり出たのが、2013年5月17日の国王杯の決勝です。会場はレアルの本拠地サンティアゴ・ベルナベウ。アトレティコはそれまで、1999年からの14年間、レアルに25試合続けて勝てていませんでした。延長戦、コケのクロスにディフェンダーのミランダが頭で合わせて2対1。「勝てない相手」という思い込みを、内側から壊した試合でした。

会社に置き換えると、エースが一人いる組織より、全員が自分の持ち場を守る組織のほうが崩れにくい、という話になります。才能は思いどおりに採れなくても、規律は作ることができます。

主力を売っても勝ち続ける仕組み

資金の少ないクラブは、育てた選手を高く売らなければ回りません。アトレティコも例外ではなく、2019年にはアントワーヌ・グリーズマンをバルセロナへ約1億ポンド、リュカ・エルナンデスをバイエルンへ約6600万ポンドで送り出し、ロドリもマンチェスター・シティへ約5800万ポンドで売りました。ポルトガルの新聞ディアリオ・デ・ノティシアスの2019年の集計では、シメオネ時代の補強の総額が約7億9400万ユーロ、売却の総額が約7億1300万ユーロ。売った分で買う、が基本の形です。

ふつうの会社なら、稼ぎ頭が抜けるたびに業績は落ちます。ところがアトレティコは、2020-21シーズンに2度目のリーグ優勝を果たしました。このとき、2014年の優勝メンバーで残っていたのはコケとホセ・マリア・ヒメネスの2人だけ。バルセロナを出たルイス・スアレスがリーグで21得点を挙げ、優勝を決めるゴールも決めています。

ここから見えてくるのは、勝っていたのが特定の選手ではなく「型」だったということです。守り方、走る量、試合への入り方が決まっているから、人が入れ替わっても、新しい選手がその型に入れば戦える。人に頼らず、仕組みで勝つ。会社でいえば、仕事を特定の人に抱え込ませず、やり方をそろえておく話に近いでしょう。

15年政権の影――長く勝つ組織が抱える危うさ

もっとも、チョリスモは万能ではありません。まず、届かなかった頂点があります。チャンピオンズリーグの決勝に2014年と2016年の2度進み、どちらもレアルに敗れました。2014年はリードしたまま後半の追加時間に追いつかれ、延長で突き放されています。守り切る戦い方は、最後の数分の一撃に弱いという面も見せました。

次に、お金の使い方です。2019年、アトレティコはクラブ史上最高額の1億2720万ユーロでジョアン・フェリックスを獲りましたが、チームの中心には定着せず、2024年に約4300万ポンドでチェルシーへ売っています。型に合う選手を安く集めて育てるはずのクラブが、型に収まりきらない高額の才能を買った例です。

そして時間です。2021年の優勝を最後に、アトレティコは5シーズン続けてタイトルから遠ざかっています。2025-26シーズンは約2億4100万ユーロの補強をして、国王杯の決勝とチャンピオンズリーグの準決勝まで進みながら、リーグは4位に終わりました。シメオネの年俸は推定で約2700万ドルと、世界の監督で2番目に高いとも報じられています。

15年近く同じリーダーが率いる組織は、強い文化を持つ反面、新しいやり方を取り込みにくくなります。一試合ずつに集中する仕組みは、裏を返せば、何年も先の形を誰が描くのか、という問いを残します。ちなみに2026年10月18日の時点で、顔ぶれを大きく入れ替えた今季のアトレティコは、リーグ戦9試合で7勝1分け1敗の2位。今のところ、また一試合ずつ勝ち点を積んでいます。

明日の会議で使えるチョリスモ3か条

ここまでの話を、ムダ知識の範囲で3つにまとめます。

1つ目は、目の前の一件に力を集めること。予算も人も足りない組織が、大企業と同じ長期計画を描いても計画倒れになりやすい。今週の商談、今月の締め切りに力を集め、勝ちを一つずつ積む。ただし、アトレティコには長い契約で監督を支え続けた経営陣がいました。短い期間に集中できるのは、長い土台を誰かが持っているからです。

2つ目は、才能より規律で戦うこと。全員が自分の持ち場を守り、手を抜かない。努力を交渉の対象にしないというのは、厳しいだけでなく、メンバー全員に同じ物差しを渡すことでもあります。

3つ目は、人ではなく型で勝つこと。エースが抜けても戦える仕組みを作っておく。そのうえで、その型が古くなっていないかを定期的に疑う。これが、チョリスモの光と影の両方から取れる教訓です。

14年間勝てなかった相手に勝ち、収入3分の1以下でリーグを制した監督の哲学は、会議室の壁に貼るには少し暑苦しいかもしれません。それでも、手持ちの札が少ない日に思い出す言葉としては悪くないはずです。

まとめ

チョリスモは、ディエゴ・シメオネがアトレティコ・マドリードに持ち込んだ「一試合ずつ」の哲学です。収入がレアルの3分の1以下のチームで2013-14シーズンにリーグを制し、主力を売りながら2020-21シーズンにも優勝しました。その中身は、目の前に力を集める短期の集中、全員の規律で守る組織、人が替わっても残る型の3つです。一方で、チャンピオンズリーグの決勝では2度敗れ、高額補強のつまずきや5シーズン続く無冠という影もあります。役に立つかどうかは、使う人次第。それもまた、ムダ知識とのちょうどいい付き合い方かもしれません。

出典・参考情報

  • [A] Deloitte「Football Money League 2015」(2013-14シーズンの収入順位。AP 配信 2015年1月22日)
  • [A] LaLiga「Special mention: Atlético de Madrid, 2013/14 Liga BBVA champions」
  • [A] UEFA「UEFA Champions League final 2014・2016」記録
  • [B] Sporting Life「Second title is Simeone's greatest success」(2021年5月24日)
  • [B] Forbes Argentina「El método Simeone: cómo liderar durante más de una década」(2023年)
  • [B] Público「El cholismo: historia de un milagro」(2014年5月17日)
  • [B] Goal(スペイン語版)シメオネ監督の記者会見(2025年1月24日)
  • [B] Into the Calderon「Diego Simeone's philosophy studied and published in Harvard Business」(2016年3月23日)
  • [B] Calcio e Finanza「Simeone ad Harvard: il suo lavoro all'Atletico Madrid è un modello per le imprese」(2016年3月30日)
  • [B] Iberosphere「La Liga: the Diego effect」(2012年4月)
  • [B] Diego Simeone『Creer』(Libros Cúpula、2016年)
  • [B] Sports Illustrated「Atletico tops Real in contentious, all-Madrid Copa del Rey」(2013年5月18日)
  • [B] Planet Football「Atlético Madrid's biggest sales」(2025年3月4日・移籍金は Transfermarkt)
  • [B] Diário de Notícias「Félix faz disparar para quase 800 milhões de euros as compras do Atlético na era Simeone」(2019年7月4日)
  • [B] The Hard Tackle「Atletico Madrid 2026/27 Preview」(2026年8月17日)
  • [B] Wikipedia「2025–26 Atlético Madrid season」(成績・補強額の確認)
  • [B] The National「Highest-paid football manager in the world」(2026年8月25日)
  • [B] Football España「Diego Simeone agrees to extend Atletico Madrid tenure」(2026年3月27日)
  • [B] NBC Sports「La Liga 2026-27 season table」(2026年10月18日更新)

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