都市伝説・怪談

黄色い無人の部屋「バックルームズ」の正体――あの1枚は、ウィスコンシンの元家具店で撮られていた

都市伝説・怪談公開 2026年9月10日更新 2026年10月26日ザツレコ編集部
黄色い無人の部屋「バックルームズ」の正体――あの1枚は、ウィスコンシンの元家具店で撮られていた

黄色い無人の部屋が無限に続く「バックルームズ」の出自を最新情報まで検証。写真の初出は2018年4月、あの「ノークリップ」の一文は2019年5月12日に別の匿名ユーザーが返信で書き足したもの。2024年5月には撮影地がウィスコンシン州オシュコシュの元家具店の二階と特定され、2026年にはケイン・パーソンズ監督の映画がA24の興行記録を塗り替えた。

黄ばんだ壁紙、湿ったカーペット、頭上でうなり続ける蛍光灯。どこまで歩いても同じ形の無人の部屋が続く「バックルームズ(The Backrooms)」は、いまや世界でもっとも有名なネット発の異世界である。ただしこれは古い伝承ではない。出発点は一枚の写真と、数行の文章。しかも写真のほうが一年以上先にあり、あの有名な一文は、あとから別人が書き足したものだった。さらに、その写真がどこで撮られたのかは長く誰にも分からず、判明したのは2024年5月。答えは異世界ではなく、アメリカ・ウィスコンシン州にある元家具店の二階である。そして2026年、この落書きのような設定から生まれた映画が配給元A24の興行記録を塗り替え、9月4日には日本でも公開された。今日はその出自から現在までを、事実と創作に分けてたどる。あっても無くても人生に影響しない、極上のムダ知識をインストールしていこう。

“現実からはみ出す”という、新しい恐怖

バックルームズの設定はこう語られる。「不注意で現実からノークリップしてしまうと、バックルームズに落ちる」。ノークリップとはゲーム用語で、本来通れないはずの壁をすり抜けてしまう現象を指す。

落ちた先は、古い湿ったカーペットの臭いが立ちこめ、見渡すかぎり狂気じみた単一の黄色に染まり、蛍光灯が最大音量でうなりを上げる空間だとされる。広さは「無作為に区切られた、およそ六億平方マイル」。六億平方マイルは、海も陸も含めた地球の表面積すべてを合わせた値の、およそ三倍にあたる。歩いて出口へ向かうという発想そのものが、最初から成立しない数字である。

注目すべきは、恐怖の道具立てがほとんど置かれていないことだ。血みどろの怪物も、呪いも、いわくつきの人形も出てこない。あるのは黄色い壁紙と蛍光灯のうなり、そして終わらない部屋だけである。それでもこの「じわじわ忍び寄る」種類の恐怖は、世界中に刺さった。断っておくが、これは昔から伝わる話ではなく、ネット上で作られた創作である。

写真が先、あの一文はあと──2018年と2019年

バックルームズは、発祥の日付をほぼ特定できる珍しい怪談である。ただし、よく語られる「2019年5月12日に写真と文章が同時に投稿された」という説明は、正確ではない。

写真そのものがネットに現れたのは、その一年以上前だった。2018年4月、画像掲示板4chanのオカルト板(/x/)に立った「呪われた画像」のスレッドに、すでにこの写真は貼られている。黄ばんだ壁紙、ぼんやりした蛍光灯、しみの浮いたカーペット。人の気配だけがない、ただの薄汚れた部屋である。このときは、とくに話題にならないまま流れていった。

状況が変わったのは2019年5月12日である。同じ4chanの/x/に「“何かがおかしい”と感じる不穏な画像を貼れ」というスレッドが立ち、そこへ例の写真が再び貼られた。そして写真そのものではなく、それに返信する形で、別の匿名ユーザーがこう書き込んだ。「気をつけないと、間違った場所で現実からノークリップして、バックルームズに行き着いてしまう」。写真は一ミリも変わっていない。変わったのは、その写真をどう見るかという枠組みだけだった。日常の風景が、他人が書いた一文だけで恐怖に変わる。これがバックルームズ誕生の瞬間である。

4chanに貼られ、すべての出発点になった一枚(撮影 Bill Magritz/Wikimedia Commons/Copyrighted free use)

“リミナルスペース”と、階層千超のカオス

なぜ「ただの部屋の写真」がこれほど刺さったのか。鍵は「リミナルスペース(liminal space)」という感覚にある。日本語なら「しきいの空間」とでも言えるだろうか。誰もいない深夜のショッピングモール、人のいない長い廊下、夏休みの誰も泳いでいないプール。見覚えがあるはずなのに落ち着かない場所のことだ。

この感覚には名前も付いている。「ケノプシア(kenopsia)」。ふだん人でにぎわう場所が無人のときの、あの妙な静けさを指す。もっとも、これは学術用語ではなく、作家ジョン・ケーニッヒが自作の造語辞典のために作った言葉である。一説には、脳がその場所を「本来あるべき姿」と無意識に照合しているからだとされる。記憶の中のにぎわいと、目の前のがらんとした現実。そのずれが「何かがおかしい」という小さな警報を鳴らす。怪物がいなくても怖いのは、恐怖の出どころが自分の中にあるからだ。

バックルームズはこの感覚を代表する例として広まり、ネット上には無数の続きが書かれた。無限に続く黄色い部屋の「レベル0」、生存者の拠点があるとされる「レベル1」、配管だらけの高温の廊下「レベル2」。暗闇に白い笑顔だけが浮かぶ「スマイラー」のような住人も描かれ、ファンWikiの階層は千を超えた。公式設定は存在しない。作者も一人ではない。スレンダーマンと同じく、大勢が少しずつ足していった集合創作であり、誰にも全体像が把握できないこと自体が魅力になっている。

十六歳の少年が、世界に広げた

ここまでならネット内輪の遊びで終わった可能性もある。押し上げたのは、決定的な一本だった。作ったのは当時十六歳のケイン・パーソンズ(Kane Parsons)、ネット上の名義は「Kane Pixels」。2022年1月、3DCGソフトのBlenderとAfter Effectsを使い、およそ一か月で仕上げた短編『The Backrooms (Found Footage)』をYouTubeで公開した。再生数は九千四百万回を超えている。

すごみは、不気味な空間を見せただけではない点にある。1990年代の家庭用ビデオカメラで撮ったような粗い画質、追われて逃げ惑う撮影者の視点、断片的にしか語られない筋書き。視聴者は「本物の記録映像を掘り出してしまった」感覚に陥った。

ケイン・パーソンズ「The Backrooms (Found Footage)」(2022年1月7日公開/YouTubeより引用)

さらに彼は、原典の設定をなぞるのではなく、自分の物語を持ち込んだ。1980年代にバックルームズへの入り口を開けてしまった架空の研究組織「ASYNC」である。シリーズの設定では、1989年10月17日の実験で空間がつながったことになっているが、この日付は現実に死者六十三人を出したロマ・プリエタ地震(サンフランシスコ大地震)が起きた日にあたる。実在のニュース映像と架空の実験記録を重ねる手つきが、この作品の生々しさを作っている。ここから先は雪崩だった。ゲームが次々に作られ、派生動画が数え切れないほど投稿され、アメリカのテレビシリーズにも取り込まれた。

2024年5月、あの部屋の住所が判明した

それでも、ひとつだけ分からないことが残っていた。いちばん最初の一枚は、どこで撮られたのか。写っているのはどこにでもありそうな部屋。看板もなければ窓の外も見えず、手がかりがない。階層が千を超え、映画化の話が進んでも、この一点だけは誰も答えられなかった。

突破口は、4chanの古いアーカイブに残っていた画像のファイル名だった。「DSC00161」。この文字列と、当時の投稿に残っていた元のリンクをたどることで、2024年5月、ついに答えが出る。場所はアメリカ・ウィスコンシン州オシュコシュ、オレゴン・ストリート807番地にある建物の二階だった。もとは1920年代の百貨店で、その後はローナーズ(Rohner's)という家具店の展示場だった建物である。

決め手は、あとから入居した模型店ホビータウン(HobbyTown USA)が自社ブログに載せていた、改装中の写真だった。ファイルに残っていた撮影日は2002年6月12日、ブログ掲載は2003年3月2日。写真に添えられた説明は「East (Oval) room」。つまりあの写真は心霊写真でも事故物件でもなく、家具店を模型店に作り替えている最中の工事記録である。黄色い壁紙はただの古い壁紙、うなっていた蛍光灯もただの蛍光灯だった。ちなみにその部屋は現在、ラジコンカーのサーキットになっており、当時の壁紙もカーペットも残っていない。

同じ日に同じフロアで撮られた別のカット(撮影 Bill Magritz/Wikimedia Commons/Copyrighted free use)

A24の記録を塗り替え、日本にも上陸した

話はそこで終わらない。短編を作った少年は、十七歳で映画化が決まり、そのまま自分で監督を務めた。撮影当時十九歳、公開時二十歳。2026年5月29日、映画『Backrooms』が全米で公開される。製作費は一千万ドルに届いていない。

ところが公開週末の興行収入は、北米だけで八千百五十万ドル、全世界で一億千八百万ドルに達した。これは配給元A24にとって史上最大のオープニングであり、同社初の北米一億ドル突破作品となった。全世界興行収入は2026年8月28日時点でおよそ三億九千四百十万ドル。パーソンズは、興行成績一位を獲得した最年少の監督にもなっている。日本では2026年9月4日、ハピネットファントム・スタジオ配給で公開された。上映時間は126分である。

そして、この映画のあらすじがまた出来すぎている。主人公クラークは家具店の店主で、自分の店の中に、あるはずのない隙間を見つけてしまう――という筋書きなのだ。現実の側で特定された「最初の一枚」も、元家具店の改装中に撮られた写真だった。偶然だとしても、この一致はよくできている。

まとめ

バックルームズは「ネット時代の怪談は、一枚の画像と数行の文章からでも生まれ、世界を覆い得る」ことを示す教科書的な事例である。写真の正体は2002年、ウィスコンシンの元家具店で撮られた工事記録。あの一文は2019年、写真を貼った本人ですらない誰かの返信。火付け役は十六歳のクリエイター。そして育ての親は、無人の空間になんとなく不安を覚える私たち全員だ。

怖いのにどこか懐かしく、不気味なのに目が離せない。その正体は「みんなで作り上げた共有の異世界」だった。ゾッとしたあとで「これは誰が、いつ、どうやって作ったのか」をたどってみる。ネット怪談は、そこまでやると二度おいしい。

出典・参考情報

  • [A] Wikipedia「The Backrooms」(英語版・一次資料参照)
  • [A] Wikipedia「Backrooms (film)」(英語版・一次資料参照)
  • [A] The Dictionary of Obscure Sorrows「kenopsia」(John Koenig)
  • [B] Know Your Meme「The Backrooms」(2018年4月の初出・2019年5月12日のスレッド・2024年5月の特定について)
  • [B] Atlas Obscura「The Original ‘Backrooms’ Location (John’s Hobbies)」(オシュコシュ/上階・現ラジコンサーキット)
  • [B] PBS Wisconsin「How a furniture store in Oshkosh became a portal to another dimension」(2024年)
  • [B] Boing Boing「Original ‘Backrooms’ photo of yellowing office dungeon finally identified as Oshkosh HobbyTown」(2024年5月30日)
  • [B] Deadline「Box Office: ‘Backrooms’ $81M U.S, $118M WW Opening Is An A24 Record」(2026年5月)
  • [B] Deadline「‘Backrooms’ Is First $100 Million Movie For A24 At U.S. Box Office」(2026年6月)
  • [B] Variety「‘Backrooms’ Box Office: Kane Parsons’ Horror Success Explained」(2026年)
  • [B] Biography「Kane Parsons Dropped His First ‘Backrooms’ Video at 16」
  • [A] Wikimedia Commons「HobbyTown USA Oshkosh interior under construction 2002 (The Backrooms).jpg」ほか原典写真セット(撮影 Bill Magritz/法的著作者 Bob Mazza/Copyrighted free use)
  • [B] 映画.com「バックルームズ」作品情報(日本公開日・上映時間・配給)

信頼度 A=一次/公的、B=定評メディア・専門書、C=個人発信。事実・証言・諸説を区別して記載。本記事は出自のはっきりした創作(ネットロア)の検証であり、超常現象を主張するものではない。

【2026年9月11日 改訂】初出版(2026年6月16日)から次の三点を訂正・加筆した。①制作者ケイン・パーソンズの年齢を「14歳」としていたが、短編公開時は十六歳が正しい。②「2019年5月12日に写真と文章が同時に投稿された」としていたが、写真の初出は2018年4月で、例の一文は2019年5月12日のスレッドに別の匿名ユーザーが返信する形で書き込んだもの。③2024年5月の撮影地特定と、2026年の映画版(全米・日本公開および興行成績)を追記した。

この記事は事実と説・伝承を区別して記述しています。

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