2026年9月11日、警察庁は四つの事件について、捜査特別報奨金の受付をさらに1年延ばすと発表しました。そのひとつが、大分県別府市で2022年に起きた「大学生2名に対する殺人等事件」です。手配されているのは、八田與一(はった・よいち)容疑者、30歳。事件から4年以上がたったいまも、行方は分かっていません。今回は、事件を面白がるためではなく、何が起きたのかを確かめ、ひとつでも多くの情報が警察に届くことを願って、警察が公開している情報をもとに振り返ります。ひとりの若い命が奪われた事件であることを忘れずに、事実だけを順にたどっていきましょう。

2022年6月29日、午後7時45分の交差点
事件が起きたのは、2022年6月29日の午後7時45分ごろです。場所は別府市野口原の県道の交差点。赤信号で止まっていた2台のバイクに、後ろから軽乗用車が突っ込みました。バイクに乗っていたのは、どちらも別府市内の大学に通う男子学生です。19歳の学生が亡くなり、もうひとりも大けがを負いました。
軽乗用車を運転していたとされるのが、当時25歳だった八田與一容疑者です。報道によれば、車は制限速度40キロの道を時速100キロ近い速さで走っていたとみられ、現場にはブレーキの跡が残っていなかったとされています。
さらに、事件の数分前には、近くの商業施設の敷地で、被害者側と八田容疑者のあいだに短いトラブルがあったと報じられています。生き残った学生は、近づいてくる車を見て、その相手だと気づいたと語っています。県警はこうした経緯も踏まえて捜査を続けてきました。警察庁の公表資料での事件名は「別府市における大学生2名に対する殺人等事件」です。
大分県警が2026年6月に初めて公開した防犯カメラの映像には、現場の約500メートル手前で、被害者のバイクが通り過ぎ、その約1分後に容疑者の車が同じ道を通る様子が写っています。

裸足で海の方へ――そこで途切れた足取り
衝突のあと、運転していた男は車を降り、救護をしないまま現場を離れました。車の中には、本人の財布やスマートフォンが残されていたとされます。防犯カメラには、裸足で海の方向へ歩いていく姿が写っていました。
数日後、現場から2キロほど離れた別府市北浜のヨットハーバーの駐車場で、黒いTシャツが見つかります。足取りは、そこでぷつりと途切れました。それ以来、確かな行方は分かっていません。
海に入った可能性も含め、県警は捜索の幅を広げています。2025年11月には、地元の漁師が漁船25隻で行った海底清掃に合わせて、引き上げられた堆積物を捜査員が漁港で一つずつ確かめました。それでも、事件に結びつく手がかりは見つかっていません。生きて逃げているのか、それとも別の何かが起きたのか。どちらとも決まっていないからこそ、警察は全国からの情報を求め続けています。

「ひき逃げ」から「殺人」へ――罪名が変わった理由
八田容疑者は、まず道路交通法違反、いわゆるひき逃げの疑いで指名手配されました。2023年9月には、警察庁が全国の警察を挙げて追うべき事件として「重要指名手配」に指定します。道路交通法違反の疑いでこの指定を受けたのは、全国で初めてのことでした。重要指名手配に指定されると、容疑者の写真入りのポスターが全国の交番や駅、役所などに貼り出され、どこの警察でも同じ情報をもとに捜査ができるようになります。亡くなった学生の母親は、指定から1年がたったとき、「重要指名手配犯になれば、全国にポスターが貼られ、すぐに捕まるはずだと思っていた」と胸の内を語り、1日でも早い逮捕を訴えました。指定は1年ごとに見直され、2024年9月、2025年9月、そして2026年9月と、そのたびに継続が決まっています。
一方で、遺族は早い段階から、これは単なる事故ではないと訴えてきました。ブレーキを踏んだ形跡のない追突と、直前のトラブル。遺族は殺人と殺人未遂の疑いで告訴し、時効のない罪に切り替えてほしいと求めます。ひき逃げの罪の公訴時効は7年で、このままでは2029年に期限が来てしまうからです。
そして2025年6月、大分県警は殺人と殺人未遂の疑いで新たに逮捕状を取りました。殺人罪には、2010年の法改正で公訴時効がなくなっています。現在の手配の罪名は、殺人、殺人未遂、道路交通法違反です。これにより、時間がたっても「逃げ切り」で事件が終わることはなくなりました。ただし、ここで書いているのはあくまで容疑であり、罪が確定したわけではありません。裁判で事実を明らかにするためにも、まずは本人の身柄を確保することが必要です。

1万3,000件を超える情報と、変わったかもしれない顔
警察に寄せられた情報は、2026年7月末の時点で1万3,654件にのぼります。そのうち目撃情報はおよそ1万2,920件。地域別では関東が最も多く、累計で約4,830件と全体の3割を超えます。近畿が約1,770件、九州が約1,650件、大分県内は約730件です。2026年の6月には401件、7月にも382件が寄せられており、関心が途切れていないことが分かります。一方で、2025年11月の「捜査強化月間」に寄せられた情報は278件で、県警はこれを「微増」と表現しました。時間がたつほど、人の記憶は薄れていきます。新しい写真や映像の公開は、その記憶をもう一度呼び起こすための取り組みでもあります。
県警は、時間とともに容疑者の見た目が変わっている可能性も考えています。2024年6月には、長髪にした姿、ひげを生やした姿、眼鏡をかけた姿、髪を結んだ姿など、6種類の似顔絵を公開しました。逃亡する人がとりがちな変装を想定した「いまの顔」の推定図です。2026年6月には新たに写真2枚を公開し、大分県のほか10都道府県でチラシを配りました。県警は沖縄県那覇市など、県外でも直接呼びかけを行っています。
警察が繰り返し伝えているのは、「体型や髪型を変えているかもしれない」という点です。顔の印象が変わっても、身長や話し方、声はそう簡単には変えられません。県警は、容疑者の声が入った動画も公開しています。

警察が公開している手配の内容
ここで、警察が公開している情報を整理しておきます。手配されているのは八田與一容疑者、2026年9月の時点で30歳です。身長は175センチくらいで、中肉とされています。過去には、大分県杵築市、栃木県日光市、千葉県千葉市、石川県鹿島郡に住んでいたことがあります。罪名は殺人、殺人未遂、道路交通法違反です。

警察庁「捜査特別報奨金に関する広告」(2026年9月11日)掲載の手配ポスターより(引用)
情報の連絡先は、大分県別府警察署、電話0977-21-2131です。似ている人が目の前にいるときは、ためらわずに110番してください。各都道府県の警察署や交番でも受け付けています。
警察庁の捜査特別報奨金は上限300万円で、受付期間は2026年11月1日から2027年10月31日までです。これとは別に、遺族などによる私的な懸賞金が上限500万円かけられており、合わせると最大で800万円になります。報奨金の対象になるのは、容疑者の検挙に結びつく情報です。

この事件が残した教訓
この事件から学べることは、いくつもあります。ひとつは、ハンドルを握った人の怒りが、一瞬で取り返しのつかない結果を生むということです。走る車は、使い方を誤れば凶器になります。トラブルの相手が車で追ってくるように感じたら、無理に張り合わず、安全な場所に逃げて110番することが身を守ることにつながります。
もうひとつは、事故を起こしたあとに逃げることの重さです。道路交通法は、事故を起こした運転者に、けが人を助け、警察に知らせる義務を課しています。その場で救護が行われるかどうかで、助かる命があるからです。
そして、情報提供の仕方にも気をつけたい点があります。似ている人を見かけても、自分で声をかけたり、写真を撮ってSNSに載せたりはしないでください。人違いだった場合、無関係の人を深く傷つけることになります。判断は警察に任せ、見た場所と時間をできるだけ正確に伝えることが、いちばんの近道です。
長く逃げている人が、ある日ふとしたきっかけで見つかった例は少なくありません。1997年に福田和子が福井市で逮捕されたのも、テレビで流れた声に気づいた店の関係者の通報がきっかけでした。逃亡が何年続いても、人が社会の中で暮らす以上、誰かの記憶に残ります。その小さな気づきを、警察に届けてください。
まとめ
2022年6月29日、別府市の交差点で信号待ちをしていた大学生2人のバイクに車が追突し、19歳の学生が亡くなりました。運転していたとされる八田與一容疑者は、裸足で海の方へ向かったあと行方が分からなくなり、いまは殺人などの疑いで重要指名手配されています。寄せられた情報は1万3,000件を超え、報奨金は最大800万円です。この事件の中心にいるのは、19歳で命を奪われたひとりの学生と、その家族です。心当たりのある方は、大分県別府警察署(0977-21-2131)か110番へ知らせてください。
出典・参考情報
- [A] 警察庁「捜査特別報奨金広告」(2026年9月11日)
- [A] 大分県警察 公式Xでの情報提供の呼びかけ(2025年〜2026年)
- [A] 滋賀県警察「警察庁指定重要指名手配被疑者八田與一に関する情報提供のお願い」
- [B] TOSテレビ大分「八田與一容疑者の現在 似顔絵6種類公開」(2024年6月28日)
- [B] TOSテレビ大分「重要指名手配 指定継続」(2024年9月13日)
- [B] TOSテレビ大分「別府湾で堆積物を捜査」(2025年11月7日)
- [B] TOSテレビ大分「情報提供1万2600件超」(2026年4月3日)
- [B] 熊本日日新聞(共同通信)「大分ひき逃げ、防カメ公開 直前映像、発生4年」(2026年6月)
- [B] 熊本日日新聞(共同通信)「警察庁、4事件の懸賞金延長」(2026年9月11日)
- [B] ライブドアニュース(OBS大分放送)「情報提供が累計1万3600件超え」(2026年8月)
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